今後の見通しと注意点をポイント解説
本レポートでは、証券保管振替機構(JASDEC、以下「保振」)が計画している大規模なシステム刷新の動向について解説します。2024年度から数年間にわたり段階的に実施される各プロジェクトがもたらす影響の範囲と、参加者側が注意しておきたいポイントについて、現時点で判明しているスケジュールとあわせて確認しましょう。
プロジェクトの見通しと影響範囲
保振のシステム刷新計画を構成するプロジェクトは、3つの部分に整理して考えることができます。利用者システムに関わる改修と、ネットワークに関わる改修、そして機構システムに関わる改修です。 一見すると参加者側に直接関係する範囲は、利用者システムに関わる部分に限られるように思えるかもしれません。しかし実際には、ネットワークや機構システムにおける入れ替えや仕様変更も、参加者の利用するシステムへの影響が避けられないため、対応が求められる範囲を一つ一つ慎重に精査する必要があります。
※各プロジェクトの概要と稼働予定
JASDEC2024プロジェクト
- 統合Webシステムの刷新
- 決済照合システムの再構築に向けた取り組み、統合Web端末の刷新(フェーズ1)
JASDEC2025プロジェクト
- 株主情報システムの新規構築
- 株主等口座振替システムのリプレース
2026年度以降のプロジェクト
- 一般債・短期社債振替システムのリプレース
- 投信振替システムのリプレース.
- 決済照合システムの再構築に向けた取り組み、個別業務・機能の見直し(フェーズ2)、業務フロー全体の見直し(フェーズ3)
- JEXGWシステムのリプレース
- ファイル伝送システムのリプレース
※保振公表情報より抜粋・整理。
2024年度に実施するプロジェクト(「JASDEC2024プロジェクト」)においては、保振が一部参加者に提供している統合Webシステムの改修が行われます。保振以外の利用者システムを導入している場合、この時点で大きな影響はありません。
翌25年度に予定しているプロジェクト(「JASDEC2025プロジェクト」)では、広範囲にわたるシステム刷新が進められることになります。具体的には、株主情報システムや株主情報ファイル伝送システムの新規構築、株主口座振替システムのリプレースが実施される見通しです。
※プロジェクト案件と並行的に実施する開発案件
2024年度分
- 株式振替制度関連2件(市場DVP決済にかかる決済進捗状況の可視化対応など)
- 一般社債・短期社債振替制度関連3件(ISINコードの付番事務の見直し及び銘柄情報提供の機能改善など).
2025年度分
- 株式振替制度関連30件(Target保振サイト経由で加入者口座コード変更ファイル提出を株式情報web端末より提出可能とする変更、株主情報ファイル伝送システムの新規構築など)
※保振公表情報より抜粋・整理。
加えて、各プロジェクトと並行的に実施する開発案件も、基幹システムの刷新と別建てで30件超が予定されています。
JEXGW入替は負担大の見通し
スケジュールは確定していないものの、2026年度以降にも複数の重要な案件が予定されています。とりわけ、JEXGWシステムのリプレースについては注意が必要です。各参加者と機構側のシステムの間でメッセージをやり取りする際に用いるJEXGWは、保振が提供するサービス全体におけるSTP(Straight Through Processing)を支える根幹的な存在です。JEXGWの入れ替えは一般債から投信、株式、国債、先物オプションまであらゆる商品とサービス、全制度に関わるため、その入れ替えにあたっては参加者側においても膨大な工数が発生することが予想されます。
JASDEC2025プロジェクトに関しては、23年度末までに接続仕様書とユーザテストの基本方針が公表される見通しです。保振はその他のプロジェクトについても、参加者側への情報発信を繰り返しながら計画を進める姿勢を示しています。
ただ、仮に参加者と保振の間で仕様書の解釈などをめぐるギャップが生じた場合、遡及的な軌道修正のため参加者側に追加的な負担が発生する可能性が否めません。また、認識のギャップを放置すれば最悪の場合、最終利用者が使用するシステムの安定性、安全性に深刻な影響が生じる恐れもあります。
※プロジェクトの主要なスケジュール
JASDEC2024プロジェクト
- 統合Webシステムの刷新、決済照合システムの再構築に向けた取り組み
(24年度1Q)端末操作マニュアル
(同1-2Q)ユーザテスト
(同2Q)本番稼働
JASDEC2025プロジェクト
- 株主情報システムの新規構築 (24年度2Q~)加入者情報の整備(フェーズ1)
同3Q)移行基本方針 (25年度1Q)端末操作マニュアル
(同1Q)~ユーザテスト
(同2Q~)加入者情報の整備(フェーズ2)
(同4Q)本番稼働
※保振公表情報より抜粋・整理。
保振が提供する統合Webシステムを使用していない場合には、25年度のプロジェクトまで1年間の猶予があると思えるかもしれません。しかし実際にはこの1年の間に、ユーザテストを含めシステム改修に対応できる体制の整備を完了させておく必要があるのです。コア業務外の作業に新たにリソースを割くことが難しい場合には、専門家への相談を早めに検討することが有効といえるでしょう。
最終利用者向けサービスの安定のために
グローバルにビジネスを展開するには、各国における制度やシステム体系のもつ地域性や特異性、そしてそれらの変化の経緯や将来的な方向性を把握することが必要不可欠です。今回の保振のシステム改修の対応についても、基幹システムと参加者側を結びつけるネットワーク全体に関する広範かつ実践的な知識と実務的経験が求められることになるでしょう。
ブロードリッジは時価総額80億ドル超のグローバルフィンテック企業グループで、1日のうちに数百万件、計数兆ドル規模に及ぶ取引の処理に携わっています。ブロードリッジ・ジャパンは1998年にサービス提供を開始。25年以上にわたり日本の金融ビジネスを支えるインフラ機能の提供に携わり、国内決済システムについての実務的知見を蓄えてきました。
ブロードリッジ・ジャパンが提供するJASDECプロセッシング・ソリューションは保振とのリアルタイムでのデータ連携をサポートしています。参加者ごとのニーズに応じてセルフカスタマイズが可能で、自然災害など非常時における業務継続性の確保にも努めています。コア業務に専念できる環境作りを総合的にサポートし、各参加者における最終利用者向けサービスの安定性、利便性の維持・向上に向けた取り組みを後方支援しています。
また、保振システム改修を含む国内の制度改正の動向を、ビジネスアナリストたちがウォッチし、その影響範囲を日々分析しています。グローバルスタンダードと日本特有の業界慣習の双方に造詣の深いユニークなエキスパート集団として、ブロードリッジ・ジャパンは国際的に事業展開する金融参加者からも評価を頂いています。
今回のシステム刷新にあたっては各参加者において、JASDECとの間で高頻度のやり取りとすり合わせの作業が求められる見通しですが、ブロードリッジはそうした煩雑な作業の大部分をお引き受けする体制を整えています。
政府が今般策定した「資産運用立国実現プラン」では、国内外の新規参入を促し、資産運用業を中心に金融業界全体を活気づける政策的な方向性が提示されました。私たちブロードリッジ・ジャパンとしても、グローバルにビジネスを展開する取り組みをサポートしつつ、この国の金融立国に向けた官民の動きに貢献したいと考えております。
JASDECプロセシング・ソリューションとブロードリッジ・ジャパンのサポート体制に関する詳細については日本営業部長の光岡大三(daizo.mitsuoka@broadridge.com)までお問い合わせください。日本語サイト(https://www.broadridge.com/jp/resource/jasdec)でも概要をご紹介しています。保振への対応を含め、決済サービスを支えるシステムの高度化や拡充を検討する際は、ぜひお気軽にご相談ください。
※保振はシステム刷新計画について順次、その具体的な内容について公表しており、当レポートにおいても詳細が判明次第、改めて参加者への影響や準備のポイントについて解説する予定です。